2026/02/04 コラム
【寺院法務】墓石業者や管理事業者との契約トラブル。契約前に確認すべきこと
はじめに
寺院墓地や納骨堂の運営において、墓石業者(石材店)や管理事業者(霊園開発業者や販売代行業者)は、寺院にとって欠かせないパートナーです。しかし、これら事業者との間で契約内容が曖昧であったり、法的なリスク管理が不十分であったりすることが原因で、後に深刻なトラブルに発展するケースが少なくありません。
「指定石材店制度を導入したいが、法的に問題はないか?」
「管理を委託している業者が、強引な勧誘を行っているようでクレームが来ている」
「開発業者から持ちかけられた契約が、いわゆる『名義貸し』に当たらないか不安だ」
このような悩みを持つご住職や寺院関係者の方は多いのではないでしょうか。
本記事では、墓石業者や管理事業者との間で起こりやすいトラブル事例を挙げながら、契約締結前に確認すべき法的ポイントについて解説します。
Q&A
Q1. 墓地内の工事を特定の石材店に限定する「指定石材店制度」を導入したいのですが、独占禁止法などの法律に違反しませんか?
原則として適法ですが、運用には注意が必要です。
指定石材店制度は、墓地の景観維持や工事の安全確保、責任の所在を明確にする目的であれば、合理性があるとして適法と解されています。ただし、不当に高額な価格設定や、既存の檀家に対して事後的に強制するような場合は、独占禁止法(抱き合わせ販売等の禁止)や消費者契約法等の観点から問題となるリスクがあります。導入にあたっては、墓地使用規則への明記と、利用者への十分な事前説明が不可欠です。
Q2. 霊園開発業者から「お寺は名前を貸すだけでよい。資金も運営もすべて当社が行い、お布施の一部をお支払いする」という提案を受けました。契約しても大丈夫でしょうか?
その契約は「名義貸し」にあたり、違法となる可能性が高いです。
墓地経営の主体は、宗教法人などの公益性の高い団体に限定されており、営利企業が実質的な経営権を握ることは「名義貸し」として禁止されています。発覚すれば、都道府県知事から墓地経営許可を取り消されるおそれがあり、寺院の存続に関わる重大な問題となります。
Q3. 墓地の管理業務を業者に委託する場合、契約書にはどのようなことを定めておくべきですか?
業務の範囲、責任の所在、契約解除の条件などを明確にする必要があります。
特に、「販売業務」と「管理業務」の線引き、金銭管理(使用料や管理料の徴収)の方法、業者が倒産した場合や契約違反があった場合の解除条項、利用者とのトラブル対応の責任分担などを詳細に定めておくことが重要です。
解説
1. 墓石業者(石材店)との関係とトラブル
(1) 指定石材店制度の法的性質
多くの寺院墓地や民間霊園では、墓石の建立や工事を行う業者を特定の石材店に限定する「指定石材店制度」を採用しています。
これについては、「消費者の選択の自由を奪うものであり、独占禁止法上の『抱き合わせ販売』等の不公正な取引方法に当たるのではないか」という議論があります。
しかし、裁判例や実務の通説では、以下の理由から、合理的な範囲内であれば適法と考えられています。
- 工事の安全確保: 墓地の地形や地盤を熟知した業者が施工することで、事故を防ぐ。
- 景観と秩序の維持: 統一的な規格や施工方法により、墓地全体の美観や秩序を保つ。
- 永続性の確保: 墓石のメンテナンスなど、長期的な責任体制を確保する。
(2) 契約時の留意点
適法とされるためには、以下の点に注意する必要があります。
- 規則への明記と周知: 墓地使用規則(管理規定)に指定石材店制度があることを明記し、墓地使用契約を結ぶ前に利用者に重要事項として説明すること。
- 業者の選定: 1社独占ではなく、複数の指定業者を設けることで競争原理を働かせることが望ましいとされています。
- 業務提携契約書: 寺院と指定石材店との間で、単なる紹介にとどまらず、施工後の保証やトラブル時の対応、境内でのマナー遵守などを定めた業務提携契約を締結しておくことが重要です。
2. 管理事業者(開発・販売・管理)との関係とトラブル
寺院が霊園を新たに開発・拡張する場合、資金力やノウハウを持つ民間業者(石材店、不動産業者、葬祭業者など)と提携することが一般的です。しかし、ここには大きな法的リスクが潜んでいます。
(1) 「名義貸し」のリスク
最も注意すべきなのが「名義貸し」の問題です。
厚生労働省の通達や各自治体の条例により、営利企業が墓地経営の主体となることは認められていません。形式上は宗教法人が経営主体となっていても、実質的な経営権(資金調達、販売計画、収益の帰属など)を営利企業が握っている場合、それは脱法行為(名義貸し)とみなされます。
【名義貸しと判断される要素】
- 墓地造成の資金をすべて業者が負担(または貸付)している。
- 墓地の販売価格や管理料を業者が決定している。
- 墓地からの収益の大部分が業者に入り、寺院にはわずかな名義料しか入らない。
- 寺院が管理運営の実務にほとんど関与していない。
名義貸しが発覚すると、墓地経営許可の取消処分を受ける可能性があります。そうなれば、既にお墓を建てた利用者にも多大な迷惑をかけ、寺院は社会的信用を失い、損害賠償請求を受けることにもなりかねません。
(2) 業務委託契約のポイント
適法に業者と提携するためには、あくまで「経営主体は寺院」であり、業者は「寺院の指示の下で業務の一部を代行する」という関係を契約書で明確にする必要があります。
- 業務の範囲: 販売代行、清掃、事務管理など、委託する業務を具体的に列挙する。
- 金銭の管理: 永代使用料や管理料は、原則として寺院の口座に直接入金される仕組みにする。業者が徴収代行する場合でも、速やかに寺院へ引き渡す規定を設ける。
- 個人情報の取扱い: 檀信徒の個人情報を業者が扱う場合、守秘義務や目的外利用の禁止を厳格に定める(個人情報保護法対応)。
- 契約の解除: 業者が不誠実な対応をしたり、経営が悪化したりした場合には、寺院側から契約を解除できる条項を設ける。
3. 契約前に確認すべきチェックリスト
墓石業者や管理事業者と契約を結ぶ際は、口約束ではなく、必ず詳細な契約書を作成し、以下の点を確認してください。
- 契約の主体: 相手方は法人か個人か。代表権限を持つ者か。
- 業務内容と責任分界点: どこからどこまでが業者の仕事で、何が寺院の責任か。トラブル発生時(施工ミス、利用者からのクレーム等)の責任はどちらが負うか。
- 費用と報酬: 委託料や手数料の計算方法、支払時期は明確か。不明瞭な「バックマージン」や「寄付金」名目の金銭授受はないか。
- 契約期間と更新: 契約期間は適切か。自動更新条項の有無や、中途解約の条件はどうなっているか(寺院側に不利な解約制限がないか)。
- 反社会的勢力の排除: 相手方が反社会的勢力と関係がないことの表明保証と、判明した場合の即時解除条項が入っているか。
弁護士に相談するメリット
事業者との契約は、長期間にわたり寺院の経営を左右する重要なものです。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 「名義貸し」リスクの回避: 提携スキームが法的に「名義貸し」に該当しないか、行政の指針や裁判例に照らして厳密にチェックし、適法な契約構造を提案します。
- 契約書のリーガルチェック: 業者から提示される契約書は、業者に有利な内容になっていることが一般的です。寺院にとって不利な条項がないか精査し、修正案を作成します。
- トラブル発生時の対応: 業者との間でトラブルになった際、契約解除や損害賠償請求などの交渉を代理します。また、指定石材店制度に関する利用者からのクレーム対応についても、法的根拠に基づいたアドバイスを行います。
まとめ
墓石業者や管理事業者は、寺院運営のパートナーですが、その関係はあくまで「寺院が主体」でなければなりません。業者任せの運営や安易な契約は、名義貸しという違法状態を招いたり、将来的なトラブルの火種となったりします。
寺院の護持と檀信徒の安心を守るためにも、事業者との契約は慎重に行う必要があります。契約内容に不安がある場合や、新規事業を計画されている場合は、寺院法務に精通した弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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