2025/06/18 コラム
監事の役割とは?寺院の財産を守るためのチェック機能と法的責任を弁護士が解説
はじめに
多くの寺院では、その運営を担う役員として「代表役員(住職など)」や「責任役員(檀家総代など)」の存在はよく知られています。しかし、宗教法人法が定めるもう一つの重要な役員、「監事」の役割については、十分に理解されていないケースが少なくありません。
監事は、寺院の財産状況や代表役員らの業務執行が適正に行われているかを、独立した第三者の立場でチェックする、いわば寺院の「監査役」であり「番人」です。監事の監査機能が正しく働くことは、不正会計の防止、法令遵守(コンプライアンス)の徹底、そして何よりも信者や社会からの信頼を確保するために不可欠です。
しかし、実態としては、監事の役割が形式的なものに留まり、年に一度、よく分からないまま決算書類に押印するだけ、といった「名ばかり監事」になってしまっている例も見受けられます。
この記事では、寺院の健全なガバナンスの鍵を握る「監事」に焦点を当て、その具体的な職務内容、権限、そして伴う重い法的責任について、Q&Aを交えながら解説します。
Q&A
Q1.寺院の「監事」は必ず設置しなければならないのでしょうか。
いいえ。宗教法人法上に規定のない任意の監査機関として「監事」を設けることがあります。具体的な員数や選任方法は、各寺院の規則で定めます。監査機関には、議決・執行機関の構成員やこれらと利害関係を有する者を選任することのないよう選任手続を適正に定め、議決・執行機関からの独立性を確保しておく必要があります。
Q2.監事の具体的な仕事がよく分かりません。年に一度、会計年度の終わりに決算書類を確認して、印鑑を押すだけでよいのでしょうか?
いいえ、決算書類に押印するだけでは、監事の職務を果たしたことにはなりません。監事の職務は、大きく分けて「会計監査」と「事務監査」の二つです。
- 会計監査
宗教法人の財産および収支の状況の監査 - 事務監査
事務執行状況の監査
解説
監査機関の設置
監査機関は、宗教法人の事務執行を監督する機関のことをいいます。
監査機関は、法律上は必置の機関ではありませが、設置する場合は、規則記載事項です。
宗教法人の適正な財務運営を図るため、会計処理の妥当性を客観的に判定し、必要があれば、執行機関に助書を与える機構を整備しておくことが望まれます。
特に信者の寄進に基づく浄財によって維持されている場合は、一層要請されます。
特に、予算規模が大きい場合、事業を行う場合や包括宗教法人の場合には、監事のような独立した監査機関を設けることが望まれます。
監査機関には、議決・執行機関の構成員やこれらと利害関係を有する者を選任することのないよう選任手続を適正に定め、議決・執行機関からの独立性を確保しておく必要があります。また、事業規模、内容等から、会計の専門的知識を必要とする場合には、公認会計士の監査を受けることとすることも可能です。
名称は、「監事」、「監査委員」など法人が定め、員数にも特に制限はありません。
監査機関は、単独で職務を執行できる規定になっていますが、合議体とすることも可能です(例、会計監査局)。
監事の職務内容
監査の機関の職務権限は、宗教法人の事務執行を監督することです。監査には、大きく分けて、会計監査と事務監査があります。
- 会計監査:宗教法人の財産および収支の状況の監査
- 事務監査:事務執行状況の監査
弁護士に相談するメリット
監事制度を正しく機能させ、寺院のコンプライアンスを確保するため、弁護士は以下のようなサポートを提供できます。
- 実効性のある監査体制の構築支援
監事の選任方法や権限を定めた規則が適切か診断し、監事の独立性を確保し、監査が実効的に行われるような体制構築をアドバイスします。 - 具体的な監査業務の指導
監事が「何を、どこまで、どのように」チェックすれば法的な義務を果たせるのか、具体的な監査のポイントや注意点をアドバイスします。 - 監事の法的リスクの管理
監事自身が、自らの法的責任を正しく理解し、そのリスクから身を守るために、どのような職務遂行が求められるかを具体的にアドバイスします。
まとめ
監事は、代表役員や責任役員とは異なる独立した視点から、寺院の運営と財産を監視する、ガバナンスの要ともいえる存在です。
監事制度を形骸化させることなく、そのチェック機能を実質的に働かせること。それこそが、寺院の不祥事を未然に防ぎ、財産を守り、信者や地域社会からの信頼を未来にわたって維持するための重要な要素です。
監事の選任や職務のあり方についてお悩みの寺院関係者の方、また、監事に就任されたものの、その職務に不安を感じておられる方は、ぜひ一度、寺院法務に詳しい弁護士にご相談ください。健全な監査体制の構築が、寺院の清廉な運営を支える礎となります。
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