コラム

2026/01/16 コラム

【寺院法務】墓地の使用権(永代使用権)は相続できる?祭祀承継者と遺産分割のルール

はじめに

「親が亡くなった後、お墓は誰が引き継ぐことになるのでしょうか?」
「兄弟でお墓を分け合ったり、遺産分割の対象にすることはできるのでしょうか?」

寺院を運営されているご住職や役員の方々のもとには、檀信徒の方からこのようなお墓の承継に関する相談が寄せられることがあるかと思います。

一般の土地や建物といった不動産であれば、相続人全員で遺産分割協議を行って相続分を決めますが、お墓(墓地使用権)は法律上、預貯金や不動産といった一般的な「相続財産」とは異なる特別な扱いを受けます。

本記事では、墓地の使用権(永代使用権)の法的性質と、それを引き継ぐ「祭祀承継者」の決め方、遺産分割との関係について解説します。

Q&A

Q1. 親が亡くなりました。お墓の権利(永代使用権)は、預貯金と同じように相続人全員で分けることができるのでしょうか?

お墓の権利は、原則として相続人全員で分ける「遺産分割」の対象にはなりません。お墓は民法上の「祭祀財産(さいしざいさん)」とされ、原則として「祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)」と呼ばれる一人の人物が単独で受け継ぐことになります。

Q2. お墓を継ぐ人(祭祀承継者)はどのように決まるのですか? 長男が継がなければならないなどの決まりはありますか?

法律上、長男が継がなければならないという決まりはありません。祭祀承継者は、次の3つの段階を経て決定されます。

  1. 被相続人(亡くなった方)による指定(遺言や生前の意思表示)
  2.  指定がない場合は、慣習に従う
  3. 指定も慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所が定める

    したがって、まずは故人の遺志が優先され、それがない場合は地域の慣習や話し合い、最終的には裁判所の判断となります。

    Q3. 誰がお墓を継ぐかで親族間でもめています。このまま決まらないとどうなりますか?

    話し合いで決まらない場合、家庭裁判所に「祭祀承継者指定の調停(または審判)」を申し立てて決めることになります。放置すると、墓地管理料の滞納や無縁墓(むえんばか)化の原因となり、寺院側から契約を解除されるリスクもありますので、早めの解決が望まれます。

    解説

    1. 墓地の使用権(永代使用権)の法的性質

    まず、「お墓を持っている」といっても、通常は墓地の土地そのものを所有しているわけではありません。寺院墓地や霊園の区画を使う権利、すなわち「永代使用権」を有している状態です。

    この永代使用権は、墓石などの墳墓を所有し、遺骨を埋蔵するために土地を使用する権利であり、一般的に「慣習法上の物権」や「特殊な契約上の権利」として保護されています。

    2. お墓は「祭祀財産」~通常の相続財産との違い

    民法では、亡くなった方の財産(遺産)は相続人が引き継ぐと定めていますが、お墓や仏壇、系譜(家系図)などは「祭祀財産」として、通常の相続財産とは区別されています。

    民法第897条(祭祀に関する権利の承継)

    1. 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
    2. 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

    つまり、お墓(永代使用権と墓石等の所有権)は、遺産分割協議によって「誰がいくらもらうか」を決めるものではなく、「祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)」が、系譜や祭具とともに一括して承継することになります。

    3. 祭祀承継者の決定方法

    祭祀承継者が誰になるかは、民法897条により以下の優先順位で決まります。

    ① 被相続人による指定

    最も優先されるのは、亡くなった方(被相続人)による指定です。

    指定の方法に厳格な決まりはなく、遺言書による指定はもちろん、生前に口頭で「お墓は〇〇に頼む」と伝えていた場合でも有効とされます5。ただし、後のトラブルを防ぐためには、遺言書などの書面で明確にしておくことが望ましいといえます。

    ② 慣習

    被相続人による指定がない場合は、「慣習」に従います。

    かつては「長男が継ぐ」という慣習が多く見られましたが、現代においては家族形態の多様化や少子化により、必ずしも長男が継ぐという慣習が明確でない地域や家庭も増えています。裁判実務においても、特定の慣習の存在を認定することは慎重な傾向にあります。

    ③ 家庭裁判所による指定

    指定もなく、慣習も明らかでない(あるいは親族間で争いがある)場合は、家庭裁判所が祭祀承継者を定めます。

    家庭裁判所は、以下のような事情を総合的に考慮して判断します。

    • 被相続人との身分関係(配偶者、子など)
    • 過去の生活関係の緊密度(同居していたか、介護をしていたか等)
    • 祭祀を主宰する意思や能力
    • 墓地や仏壇等の管理状況(誰が実質的に管理しているか)
    • 他の親族の意見

    4. 複数人による承継は可能か?

    お墓を「兄弟みんなで守りたい」と考える方もいらっしゃいます。法律上、祭祀承継者は原則として「一人」と解釈されていますが、特別な事情があり、混乱が生じないようであれば、複数人を祭祀承継者とすることも認められる場合があります。

    しかし、将来的に意見が対立したり、管理責任が曖昧になったりするリスクがあるため、寺院や霊園の管理規則(使用規則)で「承継者は1名とする」と定めているケースが一般的です。

    5. 遺産分割とお墓の関係

    前述のとおり、お墓は「祭祀財産」であるため、遺産分割の対象となる「相続財産」には含まれません。

    これは、以下の2つの重要な意味を持ちます。

    • 相続税がかからない: お墓や仏壇などの祭祀財産は、相続税の非課税財産です。したがって、生前にお墓を建てておくこと(寿陵)は、相続税対策として有効な場合があります。
    • 相続放棄をしても承継できる: 相続放棄は「相続財産」に関する権利義務を放棄するものですが、祭祀財産は相続財産ではないため、相続放棄をした人であっても、祭祀承継者となってお墓を引き継ぐことは可能です。

    6. 寺院・霊園側の視点

    寺院や霊園側としては、墓地の管理料を支払い、祭祀を執り行ってくれる「窓口」となる人物が明確であることが重要です。そのため、名義人が亡くなった場合には、速やかに「墓地使用権承継届」などの書類を提出してもらい、新しい使用者(祭祀承継者)を届け出ていただく必要があります。

    親族間での話し合いがつかず、長期間にわたって承継者が決まらない場合、管理料の未納が続けば、最終的に墓地使用契約の解除や無縁墓としての改葬手続に移行せざるを得ないこともあります。

    弁護士に相談するメリット

    お墓の承継をめぐる問題は、法律的な知識だけでなく、親族間の感情や宗教的な慣習が絡み合うデリケートな問題です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。

    1. 祭祀承継者の円滑な決定: 誰が法的に祭祀承継者としてふさわしいか、過去の裁判例などを踏まえてアドバイスを行い、親族間の話し合いをサポートします。
    2. 家庭裁判所の手続対応: 話し合いで決着がつかない場合、祭祀承継者指定の調停や審判の申立てを代理し、依頼者が承継者としてふさわしい事情(生活の結びつきや管理の実績など)を法的に主張・立証します。
    3. 寺院・霊園との調整: 管理料の滞納がある場合や、墓じまい(改葬)を検討している場合など、寺院側との法的な交渉や手続を代行し、トラブルを未然に防ぎます。

    まとめ

    お墓の権利(永代使用権)は、一般的な遺産相続とは異なり、「祭祀承継者」が単独で受け継ぐのが原則です。

    誰が承継するかは、まずは故人の指定、次に慣習、それでも決まらなければ家庭裁判所の判断となります。

    「誰が継ぐかでもめている」「お墓の管理料を誰が負担すべきかわからない」「遺言でお墓の指定をしたい」といったお悩みがある場合は、寺院法務に精通した弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。専門的な知見に基づき、円満な解決に向けてサポートいたします。


    長瀬総合のYouTubeチャンネルのご案内

    法律に関する動画をYouTubeで配信中!
    ご興味のある方は、ぜひご視聴・チャンネル登録をご検討ください。

    【リーガルメディアTVはこちらから】

    © 弁護士法人長瀬総合法律事務所 寺院・神社法務専門サイト