コラム

2025/09/06 コラム

宗教法人の「解散」と「合併」|法的手続きの全貌と清算人の法的責務

はじめに

少子高齢化や過疎化の進展に伴う後継者不在、檀信徒の減少による財政的な困難など、現代の寺院は、かつてない多くの課題に直面しています。こうした状況の中、やむを得ない選択として、寺院(宗教法人)の「解散」や、近隣の同宗派寺院との「合併」を検討せざるを得ないケースが増えています。

「解散」や「合併」は、法人の存在そのものを左右する、重大な法的行為です。そのため、宗教法人法には、信者や債権者などの利害関係人を保護し、法人の財産が不当に散逸することを防ぐため、厳格な手続きが定められています。特に「解散」を選択した場合、法人はその宗教活動を終了し、財産を整理して法人格を消滅させるための「清算」という手続きに入ります。

この記事では、寺院の「解散」と「合併」というテーマに焦点を当て、それぞれの手続きの具体的な流れ、法律上の要件、そして清算人や役員の方々が最低限知っておくべき法律知識について、Q&Aを交えながら解説します。

Q&A

Q1. 後継者が見つからず、このままでは寺院を維持していくことが困難です。寺院を「解散」する場合、どのような手続きが必要になりますか?また、先祖代々受け継いできた土地や建物などの財産は、最終的にどうなるのでしょうか?

寺院の任意解散は、主に内部での解散決議、所轄庁への届出と解散登記、清算手続き、清算結了の届出と登記、という流れで進みます。まず、ご自身の寺院の「規則」に定められた解散手続き(例:責任役員の4分の3以上の賛成など)に従って、解散を正式に議決する必要があります。

そして、解散後の財産(残余財産)の行方は、法律で極めて定められています。借金などの債務をすべて弁済した上で残った財産は、第一に「規則で定められた者」に帰属します(宗教法人法第50条)。もし規則に定めがない場合は、他の宗教法人や公益事業のために譲与することもできますが、それでも処分されない財産は、最終的に「国庫」に帰属、つまり国のものとなります。

Q2. 近隣にある同じ宗派のA寺とB寺が協力し、B寺を本拠として一つの法人として活動していくことになりました。このような「合併」には、どのような手続きが必要ですか?

ご質問のケースは、B寺が存続し、A寺が解散してB寺に吸収される「吸収合併」にあたります。合併手続きは、解散以上に複雑で、主に以下のステップが必要です。

  1. 合併契約の締結と内部決議
    両寺院で合併契約書を作成し、それぞれの規則に定められた手続きで合併を議決します。
  2. 債権者保護手続き
    両寺院の債権者に対し、官報での公告や個別の催告を行い、合併に異議を述べる機会を与えなければなりません。
  3. 所轄庁への「合併認証」申請
    これらの手続きと並行して、所轄庁に「合併認証」を申請します。所轄庁の認証がなければ、合併の効力は生じません
  4. 法務局での登記
    認証後、2週間以内に法務局で登記(B寺の変更登記とA寺の解散登記)を行うことで、正式に合併の効力が生じます。

Q3. 寺院が解散した場合、「清算人」という役割の人が選ばれると聞きました。清算人とは、具体的にどのような仕事をするのですか?

「清算人」とは、解散した宗教法人の後片付けを行う責任者のことです。通常は、解散時の代表役員がそのまま清算人に就任することが多いですが、規則の定めや責任役員会での選任によって、弁護士などが就任することもあります。

清算人の主な職務は、宗教法人法第49条の2に定められており、以下の通りです。

  1. 現務の結了
    進行中の契約などを終了させる。
  2. 債権の取立て及び債務の弁済
    寺院が持っていた未収金などを回収し、借入金や未払金などを支払う。
  3. 残余財産の引渡し
    全ての債務を弁済した後に残った財産を、法律や規則の定めに従って、帰属すべき者に引き渡す。

これらの職務を公平かつ誠実に行う重い責任があり、任務を怠って法人に損害を与えた場合は、個人として損害賠償責任を負うこともあります。

解説

1. 宗教法人の「解散」手続き

解散とは、法人がその本来の活動を停止し、法人格の消滅に向けた最終整理段階に入ることを意味します。ここでは、最も一般的な「任意解散」を中心に解説します。

1)解散事由(宗教法人法第43条)

宗教法人が解散する主な原因は法律で定められています。

任意解散、合併、破産手続開始の決定、認証の取消し、解散命令などがあります。後継者不在による解散のほとんどはの任意解散にあたります。

2)任意解散の具体的な手続きフロー

ステップ

手続きの内容

ポイント

内部での解散決議

規則に定められた方法で解散を議決します。多くの場合、責任役員の定数の4分の3以上といった特別決議が求められます。

この議事録が、後の届出や登記の際の重要な証明書類となります。

清算人の選任

通常は解散時の代表役員が清算人となりますが、規則や責任役員会の議決で他の人(弁護士など)を選任することもできます。

清算人は、解散後の法人の代表者として、後述する清算事務を行います。

所轄庁への届出と解散登記

解散後、遅滞なく所轄庁へ「解散届」を提出します。同時に、2週間以内に法務局で「解散及び清算人就任の登記」を申請します。

この登記により、法人が解散・清算段階に入ったことが社会に公示されます。

清算手続きの実行

清算人が中心となって、債権の取立て、債務の弁済、残余財産の確定・引渡しといった清算事務を行います。

債権者保護のため、官報での公告(2ヶ月以上)が必須です。

清算結了の届出と登記

清算事務がすべて完了したら、所轄庁へ「清算結了届」を提出し、2週間以内に法務局で「清算結了の登記」を申請します。

この登記をもって、法人格は完全に消滅します。

 

2. 清算人の職務と残余財産の帰属

解散後の手続きの主役は「清算人」です。

1)清算人の具体的な職務(宗教法人法第49条の2

清算人は、就任後速やかに法人の財産状況を調査し、財産目録と貸借対照表を作成して財産の現状を確定させます。その上で、債権の取立て・債務の弁済等を行います。特に、まだ把握できていない債権者のために、官報で少なくとも2ヶ月間、債権申出の公告を行い、申し出た債権者にも弁済する義務があります(同法第49条の3)。この公告手続きは法律上の必須事項です。

2)残余財産の帰属先(宗教法人法第50条)公益性の原則

残余財産は、個人の財産には決してなりません。その背景には、宗教法人が公益性を有し、税制上の優遇を受けているという事実があります。法人の財産は、個人のものではなく、社会からの信託財産であるという考え方が根底にあります。帰属先は、以下の優先順位で決まります。

    1. 規則で定める者
      規則に定めがあれば、その者に引き渡します。
    2. 他の宗教法人等への譲与
      上記1の定めがない場合、所轄庁の認証を得て、他の宗教法人や公益事業を行う団体に譲与できます。
    3. 国庫への帰属
      上記12のいずれによっても処分されなかった財産は、最終的にすべて国庫に帰属します。

3. 宗教法人の「合併」手続き

合併は、複数の法人格を一つに統合する、解散以上に複雑な手続きです。吸収合併と新設合併の2種類があります。手続きのフローは、当事者となるすべての法人で、足並みをそろえて進める必要があります。合併契約の締結、内部決議、財産目録の作成、債権者保護手続き(官報公告等)、そして所轄庁への「合併認証」申請が不可欠です。認証書が到達してから2週間以内に登記を行うことで、はじめて合併の効力が生じます。

弁護士に相談するメリット

解散・合併手続きは、法律、会計、登記といった専門分野が複雑に絡み合います。

  • 最適な選択肢の提案
  • 複雑な法手続きのトータルサポート
  • 清算人業務の法的支援
  • 利害関係者との円滑な交渉

まとめ

寺院の「解散」や「合併」は、その歴史に一つの区切りをつける、あるいは新たな形で再生を図るための、重い決断です。その決断を適切な形で実現するためには、宗教法人法に定められた手続きを、一つひとつ着実にクリアしていく必要があります。特に、残余財産は個人には帰属しないという、宗教法人の公益性に根差した原則も理解しておく必要があります。解散や合併を考え始めたら、できるだけ早い段階で、寺院法務に詳しい弁護士にご相談ください。


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