コラム

2024/12/17 コラム

弟子から未払賃金を請求された場合には支払わなければならない?

はじめに

寺院における弟子の活動は、伝統的には修行の一環として位置づけられています。しかし、近年、弟子から未払賃金の請求がなされるケースが増加しています。こうした問題は、弟子と寺院との関係が労働契約に該当するか否か、また雇用契約が成立するかどうかという点で複雑化します。

本稿では、弟子からの未払賃金請求にどう対応すべきかを解説し、寺院運営における法的リスクへの注意点を説明します。

Q&A

Q:弟子から「未払賃金を支払ってほしい」と請求されました。この場合、支払う必要があるのでしょうか?

A:弟子と寺院の関係が、法律上の労働契約に該当するか否かで対応が異なります。修行の一環として活動していた場合、原則として賃金の支払義務はありません。

しかし、寺院の業務に従事し、対価として金銭が支払われていたと判断される場合には、労働基準法上の「労働者」として賃金請求が認められる可能性があります。以下で詳細を解説します。

弟子は労働者に該当するのか? 

1.労働者とは?

労働基準法第9条によると、「労働者」とは「事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者」を指します。さらに、労働者性を判断する際には次のポイントが考慮されます。

  • 使用者の指揮命令の下で業務に従事しているか。
  • 勤務時間や場所に拘束されているか。
  • 労働の対価として賃金が支払われているか。

寺院における弟子がこの定義に該当するかどうかは、修行活動の性質や寺院との契約内容次第です。

2.修行活動と労働者の違い

昭和2725日の通達(基発49号)では、修行活動や宗教上の奉仕活動を行う者は「労働者」に該当しないとされています。ただし、以下の場合には「労働者」と認定される可能性があります。

  • 修行ではなく、寺院の収益事業や事務業務に従事している。
  • 実質的に一般の労働者と同様の条件で働いている。

弟子と寺院の間に雇用契約は成立するのか?

1.雇用契約の要素

雇用契約が成立するには、以下の要素が必要です。

  • 使用者と労働者の合意。
  • 労働の提供と賃金の支払いを内容とする関係。

修行活動は、通常、師弟関係に基づく無償の学びとされるため、雇用契約とは異なると解釈されます。ただし、次のようなケースでは雇用契約が成立する可能性があります。

  • 弟子が寺院の日常業務や事務作業を行っていた。
  • 寺院が弟子に対して明示的または黙示的に報酬を約束していた。

2.実際の判断基準

裁判例では、労働者性が認められるかどうかについて個別具体的に判断されています。たとえば、弟子が寺院の拝観事業や事務作業に従事し、給与として金銭を受け取っていた場合、雇用契約が認められたケースがあります。一方で、宗教上の儀式や修行に専念していた場合は雇用契約の成立を否定される事例もあります。 

弟子との間に雇用契約が認められる場合の対応

1.賃金の支払い義務

弟子が労働基準法上の労働者と認定された場合、未払賃金を支払う必要があります。この際、賃金は以下の基準で算定されます。

  • 労働時間に応じた報酬額。
  • 法定の最低賃金を下回らないこと。

2.トラブルを避けるための対策

未払賃金を請求されるリスクを軽減するには、以下の措置が有効です。

  • 弟子の活動内容を明文化した修行規定を作成する。
  • 金銭の交付が修行の補助であることを明確にする。
  • 修行内容と寺務を厳格に区別する。

3.話し合いの重要性

弟子との間で誤解を防ぐために、事前の話し合いが重要です。また、状況に応じて見舞金などの形で解決を図ることも一案です。

弁護士に相談するメリット

弟子とのトラブルが発生した場合、弁護士に相談することには次のようなメリットがあります。

1.法的リスクの分析

弁護士は雇用契約の有無や法的リスクを専門的に判断します。寺院運営の特殊性を考慮したアドバイスを受けることができます。

2.トラブルの予防

労務管理に関する規定の整備や契約内容のチェックを行うことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

3.迅速かつ円満な解決

訴訟に発展する前に裁判外紛争解決手続(ADR)を利用するなど、適切な方法で解決を図ります。

 

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、寺院法務の専門知識を活かしたサポートを提供しています。

まとめ

弟子からの未払賃金請求は、寺院運営者にとって大きな課題となり得ます。労働契約の有無を判断し、適切な対応を行うことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。また、修行と労務の区別を明確にし、労務管理体制を整えることが、寺院の信頼性を高める重要なポイントとなります。

 

トラブルが発生した場合は、専門家の助言を受けることをおすすめします。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、寺院法務に関するさまざまな問題について対応可能です。

 


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