コラム

2024/11/12 コラム

散骨は違法? 散骨の法的留意点

はじめに

近年、価値観の多様化により、従来のお墓に埋葬する形をとらずに、自然に帰す形で遺骨を撒く「散骨」を希望する方が増えています。散骨は「自然葬」とも呼ばれ、山や海に故人を送る方法として注目を集めていますが、一方で「散骨は本当に法律的に問題がないのか」と疑問に思う方も少なくありません。この記事では、散骨を行う際に知っておきたい法的留意点について解説します。

散骨の法的な位置付け

Q:散骨は法律違反なのでしょうか?

A: 散骨については、いくつかの関連法令に注意しなければなりません。墓地埋葬法、刑法、そして地方自治体の条例など、散骨の行為がこれらの規制に違反しないようにする必要があります。正しい手続きと場所を選ぶことで、散骨は合法的に行うことが可能です。

墓地埋葬法との関係

まず、散骨が関わる主な法律の一つが「墓地、埋葬等に関する法律」(通称:墓地埋葬法)です。この法律は、第4条第1項において「埋葬や焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域において行ってはならない」と規定しています。「埋蔵」とは、遺骨を地面に埋める行為を指しますので、単に遺骨を撒く散骨はこの法律には抵触しないと考えられています。ただし、焼骨を穴に埋めて土をかぶせる場合は、「埋蔵」と見なされ、この法律に違反することになります。

このように、「撒く」という行為は法の規制外にありますが、節度と配慮が求められます。無秩序に散骨を行うことが社会的な問題を引き起こすこともありますので、慎重に判断しましょう。

刑法190条と「遺骨遺棄罪」

次に、刑法190条が定める「遺骨遺棄罪」についても考えてみましょう。この法律は、死体や遺骨を損壊・遺棄した場合に3年以下の懲役に処するという厳しい規定です。では、散骨はこの規定に触れるのでしょうか?

実際には、遺族が権限をもって行う散骨は「遺棄罪」には該当しないとされています。

ただし、散骨が行われた場所が公共の場である場合、周囲の感情や公衆衛生上の配慮が必要です。特に、一般の人々に嫌悪感を与える恐れがある場所では、十分な事前の調整が求められます。

地方自治体の条例に注意

散骨を行う際には、各地方自治体が定める条例にも注意が必要です。法律上は散骨が認められる場合でも、自治体ごとに規制があることがあります。例えば、埼玉県秩父市では、条例により散骨が禁止されています。一方で、海に散骨する「海洋散骨」の場合も、自治体によってはガイドラインが設定されています。

地域の規制を無視して散骨を行うと、近隣住民や地元関係者とのトラブルに発展することがあります。そのため、事前にしっかりと調査を行い、必要に応じて専門家や行政機関に相談するのが望ましいでしょう。

海洋散骨とそのガイドライン

海洋散骨は、海洋環境への影響や漁業・観光業への配慮が求められます。日本では、海に散骨を行う場合、海洋汚染防止法などの規制がない範囲で節度ある散骨が求められています。具体的には、船を使用して沖合に出て、人口密集地や漁場から十分に離れたところで行うのが一般的な方法です。たとえば、熱海市では、ガイドラインとして散骨場所の選定や儀式の方法について具体的な指導が行われています。

墓じまいと散骨

昨今、墓じまいをして遺骨を散骨するケースが増えています。これは地方の過疎化や、お墓の管理が困難になった背景が影響しています。墓地埋葬法では、遺骨を他の墓地に移す場合に「改葬許可」が必要とされますが、散骨は別の墓地に移すわけではないため、改葬には該当しません。ただし、墓地管理者への手続きや合意が必要となることがあるため、個別の対応が求められます。

また、遺骨を墓地から取り出す際には、トラブル防止のために墓地使用者の責任で行う旨を記載した書面を用意するなどの対策も考えられます。墓地管理者としては、散骨の際に住民とのトラブルを回避するよう配慮することが望まれます。

散骨と樹木葬

樹木葬は、墓石の代わりに樹木を用い、自然に還す供養方法として注目されています。散骨と異なり、樹木葬は墓地としての許可が必要です。これは、樹木葬が遺骨を地中に埋葬する形態であるため、「焼骨の埋蔵」に該当するからです。多くの寺院墓地や公営墓地では、専用の区域を設けることで、自然と調和した供養を提供しています。散骨と樹木葬のどちらを選ぶかは、遺族の意向や宗教観に基づいて決定されます。

散骨によるトラブルのリスク

散骨は遺族にとって自然な供養の形かもしれませんが、場所や方法によっては周囲の人々に不快感を与えることもあります。特に、農作物や漁業に関連する地域では、風評被害を心配する声も少なくありません。また、他人の所有地に散骨した場合には、土地所有者から精神的苦痛を理由に慰謝料請求を受ける可能性もあります。

トラブルを避けるためには、事前に行政や専門家に相談し、適切な場所を選定することが不可欠です。また、散骨を行う際には、参加者のマナーや周囲への配慮を徹底しましょう。

弁護士に相談するメリット

散骨を行うにあたり、法的リスクや周囲とのトラブルを未然に防ぐためには、弁護士に相談することが効果的です。弁護士は、散骨を予定している地域の条例や法律について必要な手続きや注意点をアドバイスできます。特に複雑な法的問題が絡む場合は、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

まとめ

散骨は、法的に問題のない方法で行えば違法ではありません。ただし、法令や周囲への配慮を無視すると、思わぬトラブルに発展する可能性があります。慎重に計画を立て、行政や弁護士などの専門家のサポートを受けることが重要です。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、散骨をはじめとする供養方法に関するさまざまなご相談を承っています。


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